東京高等裁判所 昭和25年(う)3216号 判決
被告人の控訴趣意中事実誤認に関する部分並に弁護人の論旨第一、二点について。
(中略)
なお、地下足袋未検査品の本件犯行当時に於ける小売業者販売価格の統制額が一足につき金九十二円五十銭以下であり、右が売主店先渡の価格であることは洵に所論の通りであり、更に被告人が其の売却した地下足袋を現実に引渡した場所が夫々判示第一の(二)の佐々木寅吉方、小林輝男方、腰巻晴雄方、坂本一男方であつたことは本件記録に徴して之を認め得られるけれども、右佐々木寅吉に売却した際は被告人が現品を所持して所謂行商を為し売買契約と同時に金三千円を代金として受領し且現品を引渡したことが佐々木志津代作成提出の買受始末書其の他から認められるから、被告人から右買主(山梨県北巨摩郡江草村所在)方に至る迄の費用等を運賃として前記統制額に加算して計上すべき筋合でなく、亦本件記録に徴し、前記小林輝男、腰巻晴雄、坂本一男の場合につき、被告人は右三名から受領した金一万二千五百円を代金として計上して居るのであつて、被告人方から右買主(小林、腰巻方は被告人居村内、坂本方は同郡若神子村所在)方迄現品を持参する費用の如きは所謂サービス乃至は收益を得る為の費用乃至経費の一部としたものと解されるから、之等の費用を算出し之を前示金員から控除した額が代金であるとする弁護人の主張は之を採用するに由なく、此の点に関する論旨も理由がない。
(弁護人控訴趣意)
第二点
原判決は「法の適用に当つて物価庁告示第七七七号に違反」したと同告示を引用して居るが、此告示の適用について問題がある。
原判決は本件の地下足袋の価格計算については起訴状の誤を正し丹念に調べて計算を正確にするなど念を入れて居るに拘らず一点見落した処がある。
此告示第七七七号には地下足袋の三種別の販売価格の統制額を定めた外に「販売条件等」なるものがある。其の(イ)には規格検査を受けないものの価格はこの表の統制額の五割以下とするとある。而して原判決もこの条件は引用して本件の超過額の計算には此「五割以下」を取つて勘定したが(ロ)と(ハ)との条件については頬被りして之を不問に附して居る、此点が法令を適用せず或は適用を誤つた判決となると思う、即右条件(ロ)には小売業者の販売価格の統制額は売主の店先渡の価格とする」とあり(ハ)には特に荷造費及包装費は売主の負担とする」と明記してあるから、運賃は売主負担とされず、買主の家迄持参すれば売主の店先渡より高くなるとせぬばならぬ、そこで売主の店先渡と買主渡とを大雑把に一緖にしてはならぬと思う。
原審で証拠として提出された書証では小林輝男の供述書には内藤が二回に亘つて持参した旨、腰巻晴雄の供述書にも内藤が持参した旨、坂本一男の買受始末書にも内藤が持参した旨、佐々木志津代の買受始末書には「行商人より買受けた」旨が明記してあり何れも内藤が運んだのだから小中沢末男の分は除いて合計五十一足は受取つた金の中に運賃を含んでると見るべきで此分は引かねばならぬ、現に引用証拠たる内藤の副検事に対する供述調書(九二枚)に「先程私が儲けた四千五百円純益があつた様になりますが自動車賃等を差引くと其の半分の二千二、三百円位の儲けしかなりません」とあるのは正に其売渡価格の計算の折に運賃を勘定にいれて超過代金を計算する為の申立てである、此の運賃について特に之を無料とする旨の立証があれば格別だが、それがない時には告示第七七七号の適用には当然此条件を一々一件毎に勘定しなくてはならない、特に他の犯罪と異つて経済事犯の場合は細い計算が必要だし其計算の結果が当然判決に影響を及ぼすべきである、何某には売主店頭で何足、何某には運賃なしで何処で何足何某には運賃を含めて何処で何足と勘定しなくては告示第七七七号の規定を適用した事にならない、(イ)の条件だけ考えて(ロ)(ハ)には一切触れぬ原判決は適用法を半分しか見ない不当がある。